音響設備設計の基本 ライブ音響
ライブ音響設備の設計では、音を「建築音響」と「電気音響」の両面から捉えることが基本となります
。空間の特性を最大限に活かし、ミュージシャンと観客の双方にとって最適な音場を創り出すことが重要です。
建築音響設計の基本
建築音響は、音の響き(残響)や反響、遮音性を考慮する設計です。
- 残響時間の最適化
- 残響が長すぎると音が混ざり合って明瞭度が失われ、短すぎると音が硬く味気ない印象になります。
- 演奏ジャンルに合わせて最適な残響時間を設定します。クラシックやアコースティック音楽では長め、ロックやポップスでは短めが一般的です。
- 多目的に使用する場合は、可動式の吸音パネルや反射板を設置し、残響時間を調節できるように設計することもあります。
- 音響障害の防止
- 室内の平行な壁面が引き起こす、不自然な響き(フラッターエコー)や低音の共鳴(ブーミング)を防ぐ必要があります。
- これを避けるため、室形状を工夫したり、壁面に拡散体(音をランダムに反射させる部材)を配置したりします。
- 遮音・防振対策
- 外部への音漏れや、外部からの騒音の侵入を防ぐために、高い遮音性能を持つ壁や天井、床を設計します。
- ライブの振動が建物全体に伝わるのを抑えるため、床やステージの防振対策も重要です。
電気音響(PAシステム)設計の基本
PA(Public Address)システムは、マイクで拾った音をミキサーで調整し、アンプで増幅してスピーカーから出力するシステムです。ライブ音響では、特に「SR(Sound Reinforcement)」と呼ばれ、音を総合的にデザインする側面が強くなります。
- 音圧・音質の均一化
- 観客席のどの場所でも、同じような音量と音質で聴こえるようにスピーカーを配置することが重要です。
- 大規模な会場では、ラインアレイスピーカーを使用したり、補助スピーカーを設置してゾーンごとに音を調整したりします。
- スピーカーを集中配置して音の干渉を減らす方法も有効です。
- PAシステムの構成要素
- マイク: ボーカル用には丈夫なダイナミックマイク、繊細な音を拾うにはコンデンサーマイクなど、用途に応じて使い分けます。
- ミキサー: 複数の音源(マイク、楽器など)を混ぜ合わせ、音量や音質を調整します。
- スピーカー: 観客へ音を届けるメインスピーカーと、演奏者が自分の音を聴くためのモニタースピーカー(通称「ころがし」)があります。
- サブウーファー: 低音域を増幅するスピーカーで、ライブに迫力を加えます。ステージ前にモノラルで配置して、低音の偏りをなくす手法もあります。
ライブ音響設計のプロセス
- 目的の明確化: どのようなジャンルの音楽を想定するか、収容人数、予算などをヒアリングします。
- 建築音響設計: 室内形状、材質、残響時間をシミュレーションや測定に基づいて設計します。
- 電気音響(PAシステム)設計: 空間と用途に合わせたスピーカーの機種選定、配置、ミキサーや周辺機器の構成を計画します。
- 施工と調整: 機器の設置後、DSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)などを用いて、会場に合わせて最終的なチューニングを行います。
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